砂漠でサーモン・フィッシング

イエメンの砂漠の中の人造湖で鮭を養殖するという,希有壮大な国家プロジェクトを遂行する技術者達が,度重なるトラブルに敢然と立ち向かう,勇気と感動の物語.(まるでプロジェクトX)を期待して観に行くと,その期待は完全に裏切られます.プロジェクト遂行に関する諸々の話は,ほとんど素通りで,ストーリの中心は,このプロジェクトに関わるボーイ・ミーツ・ガール物語.しかし,そこは人間心理の機微の繊細な描写に長ける*1ラッセ・ハルストレムの本領発揮で,観客の心を捉えます.

スコットランドの渓流と砂漠の壮大な景色の対比が美しく,釣りに関する蘊蓄(この辺りは釣り専門家の感想も聞いてみたい)も興味深い.なんと言っても,このプロジェクトを政治利用しようとする政治家の描写は,強烈な英国流の皮肉が効いていて,大笑いさせてくれます.政府広報官を演じたクリスティン・スコット・トーマスが怪演で,一人でこの映画を持って行ってしまいました.

脚本が少し緩いと思われないこともないですが,楽しい小品佳作となっております.年末の大作映画で疲れたお腹に,軽めのお粥はいかがでしょうか?

*1:例えば,はじめてエミリー・ブラントが夜会服を着るシーン